「落雷が原因とみられる火災で、小屋が全焼」。夏になると、そんなニュースを目にすることがあります。ゴロゴロと鳴り出すと少し不安になりますが、「まさか自分の家が」とまでは考えない方が多いのではないでしょうか。
家づくりで断熱材を選ぶとき、話題の中心になるのはUA値(ユーエー値。家全体から熱がどれくらい逃げやすいかを表す数値で、小さいほど高断熱)や熱伝導率といった「断熱性能」です。もちろんそれはとても大切です。しかし断熱材には、もう一つ意外と話題にのぼらない性質があります。それが「万一火が入ったときに、どう燃えるか」です。
断熱材は、壁や屋根の中に家中ぐるりと入っている材料です。だからこそ、燃え方の性質は知っておいて損はありません。
この記事では、落雷による住宅火災の実例、落雷から出火に至る経路、そして断熱材の種類による燃え方の違いを、わかりやすく解説します。特定の断熱材を否定する話ではなく、「選ぶ前にここまで確認しておくと安心」という話です。ぜひ最後までご覧ください。
⇒断熱材をUA値や熱伝導率などの「断熱性能」だけで比べている方
⇒吹き付け断熱やグラスウールなど、断熱材の違いがよく分からない方
⇒落雷から住宅火災に至る3つの経路
⇒断熱材の種類による燃え方の違いと、「難燃」と「不燃」の違い
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落雷による火災は、住宅でも実際に起きている
2025年4月・秋田市 小屋が全焼し、住宅にも燃え移った
2025年4月18日の夜10時すぎ、秋田市で建物火災が発生しました(秋田市の火災情報に記録があります)。テレビ局の報道によると、木造平屋建ての作業小屋1棟が全焼し、同じ敷地にある住宅の一部も焼けました。火が出る直前に近くで落雷があったことから、警察は雷が原因の可能性もあるとみて調べていると伝えられています。幸い、けがをした人はいませんでした。
この火災で注目したいのは、出火したのは小屋なのに、住宅まで焼けているという点です。火は、建物の区切りどおりに止まってくれるとは限りません。
落雷による火災は「どこか遠くの話」ではなく、住宅のすぐそばで現実に起きています。
2007年6月・山形市では住宅が全焼
さかのぼって2007年6月には、落雷の直撃を受けた山形市の住宅が全焼し、亡くなった方が出た火災も報告されています(危機管理情報の専門会社がまとめた防災コラムより)。
落雷が原因の住宅火災は、件数としては決して多くありません。しかし、ひとたび起これば命や家そのものを失いかねないという点で、確率の低さだけで片づけられない災害だと言えるでしょう。
「めったにない」と「起きたときの被害が小さい」は、まったく別の話です。
雷は夏に集中する 放電数は冬の約20倍
気象庁の解析によると、雷の放電数は夏に活発になり、冬と比較すると約20倍にもなります。夏は関東や中部、近畿地方を中心に広い範囲で多数の雷が検知され、午後から夕方にかけてはっきりしたピークがあるとされています(2026年8月確認)。
名古屋を含む中部地方も、夏の雷が多い地域に含まれています。8月から9月にかけて落雷のニュースが増えるのは、体感だけではなく、データにも裏付けのある話なのです。
今まさに雷のシーズン。だからこそ、家と火災の関係を一度考えておきたいタイミングです。
落雷から出火に至る3つの経路
経路1 建物への直撃
もっとも分かりやすいのが、屋根や建物そのものへの直撃です。雷の膨大なエネルギーが一点に流れ込み、屋根や壁を損傷させたり、そこから出火したりすることがあります。先ほどの山形市の火災は、住宅への直撃によるものと報告されています。
一般の住宅で、直撃そのものを完全に防ぐ現実的な手立てはほとんどありません。雷ばかりは、いつどこに落ちるか選べませんからね。。。
直撃は防げない前提で、「落ちたあとにどうなるか」を考えておくことが大切です。
経路2 配線を伝わる大電流(雷サージ)
見落としやすいのが、直撃を受けなくても起こる被害です。近くへの落雷で発生した大きな電流が、電線や電話線などを通って家の中の配線や家電に流れ込むことがあります。いわゆる「雷サージ」と呼ばれる現象です。
製品事故を調査している国の機関であるNITE(製品評価技術基盤機構)は、「雷による大電流が建物内の配線に流れ込むことで電気製品が損傷し、使用再開時に損傷箇所で発火に至るおそれがあります」と注意喚起しています(2021年8月公表)。近くに雷が落ちたあとで動かなくなったり様子がおかしくなったりした家電は、使用を中止して電源プラグを抜くか、ブレーカーを切ることがすすめられています。
つまり、火の気がまったくない部屋でも、壁の中の配線や家電が火元になる可能性があるということです。
落雷の火災リスクは「屋根への直撃」だけでなく、「配線と家電」からもやってきます。
経路3 隣の建物からのもらい火
3つ目は、自分の家が原因ではないケースです。秋田市の火災のように、隣接する建物で起きた火が住宅に燃え移ることがあります。
自分の家でどれだけ火の始末に気をつけていても、火は外からやってくることがあります。だからこそ、「火が近づいたとき、家がどうふるまうか」という素材側の性質が意味を持ってきます。
火元は選べません。選べるのは、火が来たときに燃えにくい材料と作り方だけです。
断熱材は燃える?燃えない? 種類で変わる燃え方
断熱材は大きく分けて2系統
住宅でよく使われる断熱材は、大きく分けると2つの系統があります(このほかに木質繊維系などもありますが、今回は代表的な2系統に絞ります)。
| 系統 | 代表例 | 主な原料 | 火への強さ |
|---|---|---|---|
| 無機繊維系 | グラスウール | ガラス | 不燃材料 |
| 無機繊維系 | ロックウール | 鉱物 | 不燃材料 |
| 発泡プラスチック系 | 硬質ウレタンフォームなど | プラスチック | 指定可燃物 |
「不燃材料」とは、火災のときに燃えず、防火上有害な変形や有毒ガスの発生が少ないものとして国の基準で認められた材料のこと。「指定可燃物」とは、火がつくと燃え広がりやすい、または消火が難しいものとして、一定量以上を扱う際に火災予防条例で管理される物品のことです(いずれも2026年8月24日時点の制度区分です)。
同じ「断熱材」という名前でも、原料がガラス・鉱物なのか、プラスチックなのかで、火への性質は大きく分かれます。
グラスウールは燃える? 「不燃材料」の意味
「グラスウール 燃える」と検索したことがある方もいるかもしれません。結論から言うと、グラスウールはガラスを主原料とする断熱材で、国土交通省の告示で不燃材料として規定されています。業界団体の資料では、燃えないことに加えて、火災時に有毒ガスがほとんど発生しない点も挙げられています(2026年8月確認)。
ただし、「不燃=どんな高温でも無傷」という意味ではありません。別の業界団体の比較試験では、極端な高温にさらされた高性能グラスウールに穴があいた(溶けた)という結果も示されています。それでも、自ら燃えて火を大きくすることがないという点は、燃える材料との決定的な違いです。
グラスウールは「燃えて火を広げる」ことはない不燃材料。ただし万能ではなく、極端な高温では溶けることがあります。
ロックウールは700℃でも形が変わらない
同じ無機繊維系のロックウールは、岩石などの鉱物から作られる断熱材です。業界団体の資料では、700℃まで加熱しても形は変わらないとされ、法定不燃材として認められています。ガスバーナーで加熱する試験では、表面が焦げただけだったという結果も紹介されています(2026年8月確認)。
火への強さという一点では、住宅用断熱材の中でも突出した存在と言えるでしょう。
ロックウールは「火に強い断熱材」の代表格。防火を重視するなら覚えておきたい選択肢です。
ウレタンなど発泡プラスチック系は「難燃」でも燃える
一方、吹き付け断熱でおなじみの硬質ウレタンフォームなど、発泡プラスチック系の断熱材はどうでしょうか。
ここで大事なのは、この情報を発信しているのがウレタンの業界団体自身だという点です。業界団体の資料によると、硬質ウレタンフォームは火災予防条例で「指定可燃物」に指定されており、発火点(火種がなくても自然に燃え出す温度)は約410℃とされています。また、難燃剤の増量などで難燃化はできるものの、「有機物である限り不燃化には至らない」と明記されています。難燃化の目的は、火災の初期段階で燃え広がりを遅らせて避難時間を確保することだ、という説明です(いずれも2026年8月確認)。
つまり、「難燃」(燃えにくくする処理)と「不燃」(燃えない)は、言葉は似ていても別物なのです。「難燃品だから燃えません」という説明があったとしたら、それは正確ではありません。売る側ではなく作る側の団体が正直にそう言っている、という事実は重く受け止めたいところです。
発泡プラスチック系は、難燃処理をしても「燃えない材料」にはなりません。これは業界団体自身が明記していることです。
実際にあった、断熱材に火が入った事故
2018年7月、東京都内のビル建設現場で、作業員5名が亡くなる火災が起きました。ウレタンの業界団体が公表した注意喚起によると、地下でガスバーナーを使って鉄骨を切断していたところ、火花が階下の天井に吹き付けられていた硬質ウレタンフォームに燃え移り、出火したとみられています。国の労働安全衛生総合研究所の資料でも、溶接・溶断の火花が硬質ウレタンフォームに着火した火災事例が複数紹介されており、死亡事故も含まれています(2026年8月確認)。
これらは工事現場の事故で、着火源は落雷ではありません。その点は混同しないでください。ただ、「一度火が入ると、断熱材の種類によって燃え広がり方がまったく違う」ことを示す事例ではあります。住宅火災の火元は、落雷に限らずコンロ・たばこ・電気配線などさまざまです。どの入口から火が入っても、そのあとの展開に断熱材の性質が関わる可能性があります。(調べていて、正直少しドキッとしました)
火元が何であれ、「火が入ったあとの燃え広がり方」に断熱材の性質は関わってきます。
「燃えにくさ」まで確認する断熱材選びのポイント
UA値だけで比べない
UA値などの断熱性能は、住宅会社を比較するときの分かりやすいモノサシです。しかし、同じUA値でも、壁の中に入っている断熱材はさまざまです。数値のカタログ競争だけを見ていると、材料そのものの性質までは見えてきません。
断熱性能は「冬暖かく、夏涼しく、光熱費を抑える」ための性能。燃焼性は「万一のときに被害を広げない」ための性能。どちらも、暮らしを守るという意味では同じ土俵にある性能です。
断熱材選びのモノサシは「UA値+燃え方」の2本立てで持っておきましょう。
「どの系統の断熱材か」を質問してみる
商品名や細かい仕様を覚える必要はありません。住宅会社との打ち合わせで、「この断熱材は無機繊維系ですか、発泡プラスチック系ですか」「火が入ったときはどうなりますか」と質問してみるだけで十分です。
このとき、“安心そうに見える言葉”だけで判断しないことも大切です。「準不燃です」「難燃です」という言葉は、それ自体はウソではなくても、「燃えない」という意味ではありません。メリットもリスクも並べて説明してくれる会社かどうかは、この質問への答え方である程度見えてくるのではないでしょうか。
「燃えたらどうなりますか?」というシンプルな質問が、会社選びのリトマス試験紙にもなります。
ウレタンを否定する話ではありません
誤解のないように書いておくと、この記事は「ウレタン断熱材を使うな」という話ではありません。
吹き付けウレタンには、複雑な形の場所にもすき間なく施工しやすいなど、断熱・気密の面で確かな利点があります。業界団体も防火対策のマニュアルや注意喚起を整備しており、「燃える性質があるからこそ、正しく扱う」という姿勢を明確にしています。どの断熱材にも長所と短所があり、万人共通の唯一の正解はありません。
大切なのは、燃える性質があることも含めて説明を受け、納得して選ぶことです。知らずに選ぶのと、知って選ぶのとでは、同じ材料でも意味がまったく違います。
問題は「何を使うか」よりも、「性質を知らされないまま選んでしまうこと」です。
材料の性質×施工の質で考える
もう一つ付け加えると、断熱材は材料の性質と施工の質のかけ算で性能が決まります。
たとえば不燃のグラスウールでも、すき間だらけの施工では本来の断熱性能を発揮できません。逆に、どんな断熱材でも、丁寧に施工され、配線まわりなどの処理がきちんとされていれば、リスクは小さくできます。カタログ上の材料名だけでなく、現場の施工品質まで含めて確認できると安心です。
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「何を入れるか」と「どう入れるか」。断熱材選びは、この両方がそろって初めて完成します。
Q&A 断熱材の燃えやすさでよくある質問
Q1. グラスウールは本当に燃えないのですか?
グラスウールはガラスが主原料で、国の告示で不燃材料として規定されています。火災時に有毒ガスがほとんど発生しない点も、業界団体の資料で挙げられています。ただし、極端な高温にさらされると溶けて痩せることはあります。「自ら燃えて火を広げることがない」という点が、燃える材料との大きな違いです。不燃材料であることと、高温で変形しないことは分けて理解しておきましょう。
Q2. ウレタン断熱材の家は危険ということですか?
そう単純には言えません。指定可燃物という区分は「すぐ火事になる」という意味ではなく、発火点の約410℃という温度も、日常生活でまず到達することはありません。リスクが顔を出すのは、リフォームや解体で火気を使う工事のときや、火災が起きてしまったときです。すでにウレタン断熱の家にお住まいの方も、過度に不安になる必要はありません。工事の際に「壁の中に発泡プラスチック系の断熱材がある」と業者へ伝えることが、実務的にいちばん大切な備えです。
Q3. 落雷そのものを防ぐことはできますか?
一般住宅で直撃を完全に防ぐのは、現実的には難しいと言えます。できる備えとしては、近くに雷が落ちたあとに様子のおかしい家電を使い続けないこと(NITEが注意喚起しています)、そして火災保険の補償内容を確認しておくことなどが挙げられます。補償の範囲は契約によって異なるため、加入中の保険証券を一度確認しておくと安心です。「落とさない」対策より、「落ちたあとに被害を広げない」備えが現実的です。
Q4. 断熱性能と燃えにくさ、どちらを優先すべきですか?
二者択一で考える必要はありません。断熱性能は「熱抵抗値(厚み÷熱伝導率)」で決まるため、材料が違っても厚みの設計しだいで同等の断熱性能を確保できる場合が多いからです。予算・工法・間取りとの相性も含めて、両方を満たす組み合わせを住宅会社と一緒に探すのが現実的です。「断熱性能をあきらめずに、燃えにくさも確認する」が答えです。どちらかを捨てる話ではありません。
まとめ
落雷による住宅火災は、秋田市や山形市の事例のように、実際に起きています。雷の放電数は夏に集中し、冬の約20倍。しかも火災に至る経路は屋根への直撃だけでなく、配線を伝わる雷サージや、隣の建物からのもらい火もあります。つまり、火元を完全にコントロールすることは誰にもできません。
だからこそ、家の側の備えとして「断熱材の燃え方」を知っておく価値があります。グラスウールやロックウールなどの無機繊維系は不燃材料。ウレタンなどの発泡プラスチック系は、難燃処理をしても燃える性質が残る材料で、これは業界団体自身が明記していることです。「難燃」と「不燃」は別物。この一点を覚えて帰っていただくだけでも、この記事の目的はほぼ達成です。
断熱材を選ぶとき、UA値や熱伝導率と並べて、「これは何系の断熱材ですか?」「火が入ったらどうなりますか?」と一言質問してみてください。その答え方まで含めて、住宅会社選びの判断材料になります。
なお、本記事で紹介した不燃材料・指定可燃物などの制度区分は2026年8月24日時点の情報です。制度や各材料の認定内容は変わることがあるため、最新の情報もあわせてご確認ください。
家の性能は、快適さのためだけのものではありません。万一のときに家族が逃げる時間を稼いでくれるのも、家の性能です。完成した瞬間だけでなく、10年後・20年後も「この家にしてよかった」と思える、後悔しない断熱材選びを目指しましょう。
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